#丁寧な暮らしに憧れて:20代に広がるスローライフ志向

はじめに

SNSや雑誌で耳にする**「丁寧な暮らし」というフレーズ。ゆったりと家事や料理を楽しみ、日々の生活を大切に味わうライフスタイルを指し、近年20~30代の若い世代に憧れる人が急増しています​。朝はハンドドリップで淹れたコーヒーをゆっくり味わい、季節の食材で手料理を作り、休日は掃除や裁縫に時間をかける……そんな上質でスローな暮らし**は、忙しない現代社会のアンチテーゼとも言えるでしょう。筆者自身もこの風潮に影響を受けた一人で、「日々を大切に過ごしたい」と思い立ち、生活習慣を見直し始めました。

デジタル時代のアンチテーゼとして

私たち20代は幼い頃からデジタル機器に囲まれ、効率最優先で生きてきました。しかしその反動か、「もっとゆっくり生きたい」「小さな幸せを感じたい」という願望が高まっているように感じます。丁寧な暮らしが支持される背景には、まさにこのデジタル時代へのアンチテーゼがあります。常にスマホに追われ情報過多な日常から一歩引いて、五感を使ったアナログな時間を取り戻したい——そんな思いが、多くの若者をスローライフ志向へと向かわせているのでしょう。

コロナ禍によるおうち時間の増加も、このトレンドを後押ししました。外出できない中で、自炊や部屋の模様替え、手芸などに目覚めた人も多いはず。例えばそれまでコンビニ弁当で済ませていた人が、時間ができたことで毎食自炊に挑戦したり、断捨離で部屋を整えたりと、生活を見つめ直す機会になりました。「暮らしを楽しむ」という価値観が広がったのです。

20代に広がる理由:質を求める生き方

かつては年配の優雅な趣味と思われがちだったスローライフですが、今や20代こそ暮らしの質にこだわる世代かもしれません。調査でも「上質で丁寧な暮らしを求める傾向は年代が若いほど強い」という結果が出ています​。物より経験を重視するZ世代は、高価な物を所有するよりも日々の行動そのものを充実させたいと考えるのでしょう。丁寧な暮らしは派手さはありませんが、自分なりのこだわりを反映できるため、自己表現の一環にもなっています。例えばお気に入りの陶器のお皿を集めたり、コーヒー豆の産地に凝ってみたりと、その人の個性が光る部分でもあるのです。

また、SNSでの共有も若者のモチベーションを高めています。Instagramには#朝ごはん部 や #日々の暮らし など、丁寧な暮らしぶりを紹介する投稿が多く、互いに刺激を受けています。「こんな素敵な生活してみたい!」という憧れが具体的な行動につながりやすい環境と言えるでしょう。実際、私の周りでも週末ごとにパンを焼いてインスタにアップしている友人や、自家製ジャム作りにハマる同僚がいます。楽しみながら発信できることが、このブームを持続させる原動力になっているのかもしれません。

挑戦してみたら…実感したメリットと葛藤

筆者は「丁寧な暮らし」に憧れつつも、最初は何から始めれば良いかわからず戸惑いました。そこでまずは、毎日の朝時間を変えてみることに。以前は目覚めてすぐスマホをチェックし、慌ただしく支度していた私ですが、早起きを心がけ朝のルーティンを導入しました。お気に入りの音楽を流しながらゆっくり白湯を飲み、簡単なストレッチをしてから朝食を調理。季節の果物を添えたヨーグルトボウルや焼きたてトーストを丁寧に味わうと、一日の始まりがこんなにも穏やかになるのかと感動しました。

また、休日には部屋の掃除や洗濯をじっくり行い、気が向いたときには布巾やタオルを手縫いで作ってみたりもしました。最初は不器用で針に糸を通すのも一苦労でしたが、少しずつ形になっていく達成感は格別です。夜は照明を暖色に切り替え、ハーブティーを淹れて読書をする時間を確保。スマホを見る時間を減らすことで、気持ちがリセットされスッと眠れるようになりました。

こうした取り組みを通じて実感したメリットは、心のゆとりが生まれたことです。忙しい日々でも、小さな儀式のような習慣があるだけで不思議と心に余裕ができ、「まあいっか」と肩の力を抜ける瞬間が増えました。自炊のおかげで健康的に痩せてお財布にも優しかったり、部屋を整えたことで探し物が減ったりと、実利的なメリットも感じます。

しかし一方で、葛藤もありました。仕事で帰りが遅い日が続くと、正直料理や掃除にまで手が回らず「丁寧どころじゃない!」という状態に逆戻りすることも。その度に理想とのギャップに落ち込みかけましたが、「完璧にやらなくてもいい」と自分に言い聞かせるようにしました。実際、アンケートでも丁寧な暮らしに憧れる人の6割に対し、実践できている人は3割弱しかおらず、約4人に1人は途中で挫折しているそうです​。皆少なからず丁寧な暮らし疲れを感じることがあるのだと分かり、肩の力が抜けました。

無理なく始めるコツ

丁寧な暮らしは、本来は自分を大切にする手段であって、決して義務ではありません。無理をして疲れてしまっては本末転倒です。そこで、これから取り入れたい方へ、いくつかコツを提案します。

  1. 小さなことから: 全てを完璧にやろうとせず、できる範囲で一つずつ始めましょう。例えば「毎朝5分だけ早起きしてストレッチ」や「週1回は自炊する」など、ハードルは低めに設定します。
  2. 自分のペースを尊重: 他人のSNSは参考程度に。人と比べず、自分が心地よいと感じる習慣を大事にしましょう。好きな香りのアロマを炊くだけでも立派な丁寧な暮らしです。
  3. 道具を揃える: お気に入りのマグカップや上質なリネンのふきんなど、気分が上がる道具を取り入れると家事時間が楽しくなります。一つひとつに愛着が湧けば、自然と丁寧に扱うようになるもの。
  4. 完璧を求めない: 疲れたらサボってOK。「今日は外食しちゃったけど、明日余裕あるときにまた頑張ろう」くらいのラフさを忘れずに。続けることが何より大切です。

まとめ:自分らしい丁寧さで豊かな暮らしを

丁寧な暮らしは決して特別な人だけのものではなく、自分なりのペースで取り入れていけるものです。大切なのは、自分の生活を見つめ直し、ほんの少しでも心地よい時間を増やそうとする姿勢でしょう。たとえ毎日が忙しくても、小さな工夫や習慣で日常の質はぐっと高まります。

SNSには理想的なスローライフが溢れていますが、現実の私たちは自分のできる範囲で楽しめば十分です。他人と比べず、自分らしい「丁寧さ」を追求していけば、それがあなたにとっての豊かな暮らしになるはず。慌ただしい日々の中にも、自分なりの丁寧なひとときを忘れずに——それがきっと、これからの時代を上手に生きるヒントになるのではないでしょうか。