深夜ラジオが支えた若手時代: 30代で思い出すあの頃

「時計の針は午前1時を回りました。皆さん、今日も一日お疲れ様—」ラジオから流れるパーソナリティの穏やかな声。それは、7年前の私にとって毎晩のように聞いていた深夜ラジオ番組の始まりの言葉です。新人社会人として慣れない業務に追われ、孤独と不安に押し潰されそうだったあの頃。真夜中のワンルームマンションで、一人明かりを落として布団にくるまりながら耳にしていたラジオだけが心の拠り所でした。

深夜ラジオがくれた寄り添い

当時23歳、新卒で配属された部署では毎日残業の連続。家に帰り着くのはいつも深夜近くでした。疲れ果てた頭で布団に入ってもなかなか眠れない。そんなとき、ふと手を伸ばしたラジオから流れてきたのが、人気お笑い芸人がパーソナリティを務める深夜番組『○○のオールナイトニッポン』でした。くだらないリスナーからの投稿に大笑いしたり、時には人生相談に真剣に答えたりするパーソナリティのトークに、私は瞬く間に引き込まれました。

特に心に残っているのは、ある晩寄せられた同世代のリスナーからのメールです。「就職してから毎日が辛いです。でも○○さんのラジオを聴くと笑えて、もう少し頑張ろうと思えます」と綴られていました。それに対するパーソナリティの返事は冗談まじりでしたが、「俺も若い頃は怒られてばっかだったよ。一緒一緒!」と笑い飛ばしてくれて、なぜだか涙が溢れました。まるで深夜の親友と話しているような感覚—。昼間は萎縮してばかりだった私にとって、ラジオ越しに聞こえるその寄り添いは何よりも大きな支えだったのです。

30代になって蘇るあの声

それから月日が流れ、いつしか私はラジオを聴かなくなっていました。仕事にも慣れ、夜更かしすることも減り、生活リズムが整ってきたからかもしれません。ところが先日、偶然SNSで「○○のANN今週で最終回」の文字を見かけ、ハッとしました。私がかつて聴いていたあの深夜番組が終了するというのです。居ても立っても居られず、久々にラジオをつけました。

深夜1時、懐かしいあの声がスピーカーから流れてきます。7年ぶりに耳にするパーソナリティは少し落ち着いた口調になっていましたが、軽妙なトークは相変わらず。最終回直前スペシャルということで、これまでの名場面集やリスナーからの感謝メッセージが次々と紹介されていきます。その中には、「新人時代につらいときに支えてもらいました」とまるで当時の私のような内容のメールもあり、胸が熱くなりました。

気づけば私は、寝静まった家族を起こさぬようイヤフォンで音量を上げ、布団にくるまっていました。30代となった今、同じように深夜ラジオを聴いている自分に少し笑ってしまいました。しかし、当時とは違う気持ちも芽生えていました。昔は「救われたい」と必死にすがる思いで聴いていた私が、今は一歩引いて番組を客観的に楽しめている。少し大人になった自分に気づいたのです。

あの頃の自分にありがとう

番組の最後、パーソナリティが静かなトーンでリスナーへの感謝を語りました。「どんな時も、君は一人じゃないから」と締めくくられた言葉に、私はハッとして涙が滲みました。それは、あの頃の私が一番欲しかった言葉でした。そして今、その言葉を穏やかな気持ちで受け止められている自分がいます。深夜ラジオがなければ乗り越えられなかったかもしれない新人時代。それを経て、こうして30代になれた自分自身にも「よく頑張ったね」と声をかけてあげたくなりました。

ラジオから流れるエンディング曲を聴きながら、私はそっと心の中でつぶやきました。「ありがとうございました。」これは番組への感謝であると同時に、当時の私から今の私へのエールのようにも思えました。辛かった日々に寄り添ってくれた深夜ラジオは、私の青春の一部であり、人生の恩人です。

30代になった今、あらためて当時の番組を思い出して感じるのは、人は誰かの声に支えられて前に進めるということ。あの深夜の語りがなければ、私はくじけていたかもしれません。メディアの形は変われど、今も誰かの深夜ラジオが誰かを励ましているでしょう。私もいつか、誰かにとってそんな存在になれたら—そんなことをふと思いながら、静かにラジオの電源を切りました。部屋には深夜の静けさが戻りましたが、心にはあの優しい声が今も生き続けています。