「一度でいいから本場のミュージカルを観てみたい!」——妻の熱心なリクエストに押され、私は半信半疑ながら劇場の座席に身を沈めていました。演目は世界的な名作**『レ・ミゼラブル』**。学生時代に映画版を観て号泣した記憶はありますが、正直言って舞台芸術にそれほど興味があったわけではありません。しかし幕が上がり、俳優たちが壮大な音楽とともに歌い出した瞬間、私は鳥肌が立つのを感じました。
舞台の迫力に圧倒される
貧困と革命の嵐吹く19世紀フランスを舞台に繰り広げられる物語。生の舞台は映画とは比べものにならない迫力でした。キャストたちの声量、息遣い、舞台装置のダイナミックな転換、その全てが五感に直接訴えてきます。物語に没頭するうちに、私はいつの間にか主人公ジャン・バルジャンの心情に自分を重ね合わせていました。彼が苦難を乗り越え「誰かのために生きる」決意を歌い上げるクライマックスでは、熱いものがこみ上げ、気づけば頬には涙が伝っていました。
終演後、スタンディングオベーションの中で私が拍手を送りながら感じていたのは、胸の中にみなぎるようなエネルギーでした。2時間半前まで、正直仕事疲れで気乗りしない自分がいたのが嘘のようです。劇場を出るとき、妻が「すごかったね!」と興奮気味に話しかけてきました。私は茫然としながらも、「ああ、こんな感動は久しぶりだ」と頷きました。
仕事への新たな活力
翌週、オフィスで私は不思議な変化に気づきました。朝から溜まっていた難題に取り組む気力が湧いてきたのです。前週までは面倒に感じていたプロジェクト企画書の作成に、なぜか前向きに向き合えていました。頭の中で『レ・ミゼラブル』の劇中歌「One Day More(パリは今日も)」が繰り返し流れていたのも手伝ったかもしれません。「今日一日、全力を尽くそう」という歌詞(日本語版では別表現ですが)に背中を押されるように、集中力が高まっていました。
また、ミュージカルで感じたプロフェッショナリズムは、仕事への姿勢にも影響を与えました。舞台上の俳優たちは皆、一瞬一瞬に全魂を込めて演じ、歌っていました。その真剣さと情熱に打たれた私は、自分の日々の仕事ぶりを省みました。最近、慣れからか惰性でこなしてしまっていた業務はないだろうか? あの舞台俳優たちのように、目の前の役割に全力を注げているだろうか?考えた末、私はある会議でいつも受け身になりがちだった自分を改め、積極的に意見を述べてみました。すると議論が深まり、会議後に上司から「今日は積極的だったね」と声をかけられる成果も。ミュージカルの舞台に触れたことで、自分の中に眠っていた情熱スイッチが押されたようでした。
感動が人生に火を灯す
今回の体験で痛感したのは、感動が人にエネルギーを与えるという当たり前のことでした。忙しい日々の中で、私はいつしか心が乾いていたのかもしれません。週末は疲れて家でぼんやり過ごすことが多く、新しい刺激を自ら求めることも減っていました。そんな私の心に、ミュージカルという非日常の芸術が鮮烈な刺激を注ぎ込んでくれたのです。あの舞台から伝わってきた「生きる力」のようなものが、現実の自分の中にも灯ったことで、仕事へのモチベーションや創造力が復活したように感じます。
それ以来、私は意識的に月に一度は何かしらの舞台やライブに足を運ぶようにしています。職場の同僚からは「趣味が増えていいですね」なんて言われますが、ただ楽しんでいるだけでなく自分に必要な充電をしている感覚です。ミュージカルに限らず、映画でもコンサートでも、自分の心が震える体験をすることが、結果的に仕事のパフォーマンスや日々の充実につながるということを学びました。
舞台の感動は一瞬かもしれません。しかし、その余韻は確実に日常の糧になります。30代の皆さんにも、もし心に疲れを感じるときがあれば、ぜひ劇場の扉を開いてみてほしいと思います。そこで得た刺激が、新たな活力となって明日からのあなたを支えてくれるかもしれません。私もまた次の公演チケットを手に入れ、仕事に人生に、さらなるエネルギーを注入するつもりです。