音楽フェスに再挑戦: 30代が感じる青春との違い

炎天下の野外ステージ、熱気に包まれた観客の海——その中心に、かつての自分がいた。大学生の頃、夏の音楽フェスに明け暮れた日々。ところが就職してからはすっかり足が遠のいてしまっていた。そんな私が30代半ばにして久々にフェスに再挑戦することになったのは、青春時代に聴いていたロックバンドが再結成し、そのフェスに出演すると知ったからだ。

青春の記憶と現実のギャップ

10年ぶりに訪れた夏フェス会場は、懐かしさとともにいくつかのギャップを感じさせた。まず驚いたのは自分自身の体力だ。午前中から様々なステージをハシゴし、昔なら炎天下でも平気で飛び跳ねていられたのに、昼過ぎには早くも足が棒に…。水分補給と日陰での休憩をこまめにとらなければ、と自分に言い聞かせる。周りを見渡すと、若い子たちはタオルを振り回しながら全力で踊っている。一方私はといえば、持参した折りたたみ椅子に腰掛けて遠巻きにステージを眺め、「昔はああだったなぁ」と苦笑い。20代の頃のように最前列に突撃する勇気も体力もなく、少し寂しくもあったが、同時に無理なく自分のペースで楽しもうという余裕もあった。

また、音楽の感じ方にも違いがあった。若い頃は出演アーティストをできるだけ多く観ようとタイムテーブルを埋め尽くす勢いで動き回っていた。しかし今回は、午前中はお気に入りのシンガーソングライターのステージで木陰に座り心地よい歌声に耳を傾けたり、昼下がりには飲食エリアでクラフトビールを片手に聞こえてくる音楽をBGMに仲間と談笑したりと、ゆったりとした楽しみ方をしている自分がいた。かつては感じなかったフェス会場全体の雰囲気や、青空の下で聴く音楽の心地よさを、改めて噛みしめていた。

大人のフェスの楽しみ方

夕暮れ時、いよいよお目当ての再結成バンドの出番が近づいてきた。私は気合を入れてメインステージへ向かった。会場には同世代と思しき30代、40代の姿も多い。皆、学生時代のバンドTシャツを引っ張り出してきたのか、少し色褪せたグッズを身に着けていて、それだけで仲間意識が芽生える。「○○(バンド名)復活、胸熱ですね!」隣にいた同い年くらいの男性に思わず話しかけると、「ですよね!まさかまた生で聴けるとは」とすぐに打ち解けた。フェスの醍醐味である見知らぬファン同士の一体感——若い頃感じたあの高揚が、歳を重ねた今でも蘇ってきたのだ。

そして始まったライブ。懐かしいヒット曲のイントロが流れた瞬間、周囲の30代以上組からは歓喜の叫びが上がった。私も鳥肌が立ち、気づけば拳を突き上げていた。体力の衰えを感じていたはずが、その曲の間だけは夢中で跳ね、声を張り上げていた。ふと隣を見ると、さっきの男性と「最高ですね!」と笑い合っている。まわりの若い観客たちはそのバンドを知らないのかポカンとしていたが、お構いなしだ。大人だって青春していい——そんな開き直りとともに、心から音楽に心震わせた。

ライブ後は早めに撤収し、夜通し騒ぐ若者たちを横目に帰路についた。昔なら深夜まで残って次の日声が枯れても構わなかったが、今は無理は禁物だ。それでも、胸の中には心地よい達成感と、若い頃とは違った充実感が広がっていた。

時を経て見える新たな景色

今回のフェス再挑戦で痛感したのは、歳を重ねることで楽しみ方が変化するということです。かつてのように全力でがむしゃらに飛び込むのではなく、自分のペースで味わう音楽の良さ。体はしんどくても、その分心で深く感じ取れる瞬間があること。そして何より、当時と同じ音楽が今の自分にもエネルギーを与えてくれることに感謝の気持ちが湧きました。

青春時代との違いを感じつつも、それを否定するのではなく受け入れて楽しむ——30代のフェス参戦は、まさにそんな大人の余裕と情熱の両立でした。周りの若者たちから見れば「無理してんな〜」と思われたかもしれませんが、それでも構いません。あの日の空の下、再び音楽に心震わせた自分を少し誇らしく思っています。

きっとこれからも歳を重ねるごとに、エンタメの楽しみ方は変わっていくでしょう。それでも大丈夫。変わることは悪いことじゃない。むしろ、新しい視点で世界を楽しめるようになることなのだとフェス会場が教えてくれました。青春時代の自分に胸を張って言えます——「お前が大好きだった音楽、今でもちゃんと俺を熱くさせてくれてるよ」と。次の夏もまた、自分なりのスタイルでフェスに挑みたいと思います。