社内プロジェクトの会議室。テーブルを囲むメンバーの表情は硬く、議論は平行線をたどっていました。新サービスの方向性について、意見が真っ二つに割れて収拾がつかないのです。リーダーである私は焦りを感じながらも、ある映画の名シーンを思い浮かべていました。モノクロ映画『十二人の怒れる男』で、陪審員たちの激しい対立をたった一人の男が冷静な対話でまとめ上げるシーンです。私は深呼吸すると、その主人公になったつもりで口を開きました。
名シーンの再現?冷静な対話で道を拓く
「皆さん、一度立ち止まって整理しましょうか。」私はできるだけ穏やかな声で切り出しました。映画の主人公がそうしたように、まず全員の意見を一つずつ丁寧に確認することにしました。「反対意見の理由をもう少し詳しく教えてもらえますか?」焦点を絞った質問を投げかけ、相手の主張に耳を傾けます。ただ反論をぶつけ合うのではなく、相手の不安や懸念を引き出すことに注力しました。
会議室には一時、静かな空気が流れました。私は映画のワンシーンを思い出しながら、メンバーの表情と言葉に注意深く目と耳を傾けました。あるベテラン社員は新サービスのリスクに不安を感じているようでした。そこで、「具体的にどの点が心配でしょう?」と尋ねます。彼が率直に懸念を話してくれたところで、今度は推進派のメンバーに「そのリスクに対して何か対策は考えられますか?」と振りました。徐々に皆、自分の主張だけでなく相手の話にも耳を傾け始めました。私は映画の主人公よろしく、偏らず中立的な立場で議論のファシリテートに徹しました。
やがて、対立していた双方の意見の間に共通の目標が見えてきました。「サービスを成功させたい」という点では全員が一致していたのです。私はその共通点を指摘し、「目的は同じだからこそ方法で意見が分かれているんですね」とまとめました。そこからは早かったです。「リスクを減らしつつ挑戦するにはどうするか」という建設的な話し合いにシフトし、反対派だったベテラン社員も「そこまで考えてくれるならやってみよう」と折れてくれました。会議終了後、メンバーから「冷静にまとめてくれて助かりました」と声をかけられ、私は内心(ありがとう、映画のお手本!)と呟いていました。
フィクションが現実に活きる瞬間
改めて感じたのは、名作映画のシーンから学べるコミュニケーションのコツの有効性です。『十二人の怒れる男』の主人公は、感情的になった他の陪審員たちに対し、決して感情でぶつからず理性と対話で糸口を探りました。私が意識した「相手の話をまず聞く」「問いかけで相手自身に考えてもらう」といった手法は、まさにそのシーンから盗んだものです。結果として、険悪だった会議のムードを変え、全員が納得感を持って合意に至ることができました。
他にも、映画からヒントを得たコミュニケーション術は数え切れません。上司にプレゼンする前夜には『英国王のスピーチ』のスピーチ練習シーンを思い出して発声練習をしてみたり、取引先との交渉前には『ゴッドファーザー』でドン・コルレオーネが静かに相手を説得する場面を思い浮かべて度胸をつけたり…。一見大げさに思えるかもしれませんが、映像で焼き付いた印象的なシーンは、自分を鼓舞したり指針を示してくれたりするのです。
伝える力は学べる
映画というフィクションは単なる娯楽ですが、そこで描かれる人間ドラマには普遍的なエッセンスが詰まっています。特に名シーンと呼ばれる場面には、人の心を動かす不思議な力があります。それを自分の現実に当てはめてみることで、コミュニケーションのヒントが得られることを今回の経験で実感しました。
大事なのは、鵜呑みに真似をするのではなく、自分なりに咀嚼して応用することだと思います。私は会議中、「さあ皆さん落ち着いて」などと偉そうに振る舞ったわけではありません。ただ、映画の主人公の冷静さと傾聴姿勢を真似てみたのです。結果として周囲も冷静さを取り戻し、対話が生まれました。
映画の名シーンを思い出すたびに、「伝える力は学べるものなんだ」と勇気づけられます。生まれつき饒舌ではない私でも、大好きな映画たちが先生となってくれる。これからも壁にぶつかったときは、映画の中のヒーローやヒロインたちの所作や言葉を参考にしながら、自分のコミュニケーション術を磨いていきたいと思います。
もし皆さんも難しい交渉やスピーチを控えているなら、一度お気に入りの映画の名場面を思い出してみてください。そこに成功へのヒントが隠れているかもしれませんよ。