海外赴任の辞令が出たのは、私が33歳のときでした。英語でのビジネス、異文化の職場…期待よりも不安の方が大きかった私は、週末にある海外ドラマを一気見することにしました。選んだのはニューヨークの弁護士たちを描いた『SUITS/スーツ』。エリート弁護士ハーヴィーと新人のマイクが繰り広げる法廷劇です。「ドラマで英語の勉強になるかな」くらいの軽い気持ちでしたが、見進めるうちにそれ以上の学びがあることに気づきました。
異文化の職場をドラマで疑似体験
『SUITS』では、上司と部下がファーストネームで呼び合い、意見を遠慮なくぶつけ合うシーンが日常茶飯事です。あるエピソードで、若手のマイクが上司ハーヴィーに自分の意見を強気に提案する場面がありました。最初は「こんな新人、日本じゃ考えられないな…」と驚きましたが、ハーヴィーはそれを受け入れ議論がさらに深まっていく展開に目からウロコ。「意見を言わなければ存在しないのも同じ」という台詞にはドキリとさせられました。
実際にアメリカ赴任してみると、会議で沈黙しているだけでは評価されない雰囲気を肌で感じました。私はドラマで見たマイクを思い出し、勇気を出して自分のアイデアを発言してみました。最初は心臓がバクバクでしたが、同僚たちはしっかり耳を傾け、率直なフィードバックをくれました。その瞬間、「発言すること」を恐れない大切さを痛感しました。海外ドラマでの疑似体験があったおかげで、一歩踏み出すハードルが少し低くなっていたのです。
グローバルなキャリア観の違い
海外ドラマからは、職場でのふるまいだけでなくキャリアに対する考え方の違いも見えてきます。例えば、同僚に勧められて観た『シリコンバレー』という米国IT業界を舞台にしたドラマでは、主人公たちが何度も失敗し、転職や起業を繰り返す様子が描かれていました。日本では一つの会社に長く勤めるのが美徳とされがちですが、ドラマの中のキャラクターたちはキャリアアップや自己実現のために環境を変えることを前向きに捉えています。ある登場人物が「自分の価値を最大化できる場所を探すんだ」と語るシーンを見て、ハッとしました。私自身、転職にはネガティブな印象を持っていましたが、グローバルな視点ではキャリアはもっと柔軟でいいのだと気づかされたのです。
また、『エミリー、パリへ行く』というドラマでは、アメリカ人女性エミリーがパリの職場でカルチャーギャップに奮闘する姿がコミカルに描かれています。定時きっかりに仕事を切り上げるフランス人同僚に最初は戸惑うエミリー。しかし次第に、「仕事の効率も大事だけど、人生を楽しむ余裕も大切」という現地の価値観を学んでいきます。このエピソードからは、働き方の多様性とワークライフバランスの考え方について考えさせられました。日本で残業続きだった私も、「オフの時間を充実させることが結果的に仕事の質を上げる」という視点を得ることができたのです。
架空の物語から現実へのヒント
もちろんドラマはフィクションで誇張もありますが、だからこそリアルな課題が浮き彫りになることもあります。海外ドラマには、職場での差別やハラスメント、女性のキャリア問題などシリアスなテーマが描かれることも多く、それらは実際のグローバル社会で議論されているトピックと地続きです。そうした物語を通じて、私は自分の働く環境を客観的に見つめ直す機会を得ました。「自分ならどう対応するだろう?」と登場人物に重ねて考えることで、異文化だけでなく日本の職場の良さや課題も見えてきたのです。
海外ドラマは娯楽でありながら、グローバルに働くとはどういうことかを教えてくれる優れた教材でもあります。英語の勉強になるだけでなく、異なる文化圏でのコミュニケーションや価値観を肌感覚で学べるのは大きな財産です。
もしあなたが国際的なキャリアに興味があったり、異文化の働き方を知りたいと思ったら、気軽に海外ドラマの世界に飛び込んでみてください。画面の中の登場人物たちの挑戦と成長から、明日の自分に活かせるヒントがきっと見つかるはずです。グローバルな舞台で活躍する自分を想像しながら、次のエピソードを再生してみましょう。